確か10年以上前に初めてマレーシア クアラルンプールから飛行機を乗り継いでペナン島に出かけた時のことでした。旅行会社のオプショナルツアーでオランウータンの保護区に行った途中でランチに伺ったお店は味の濃いグリル系の料理が中心でした。
こりゃあさぞかしビールに合いそうだろうとウェイトレスさんに「ビールください♪」と聞いたとき、「え?ここにはアルコールなんてないですよ?」といった酒なんて無くて当然みたいな返され方をしたとき、ああ そうだった…考えてみればココはイスラム圏だったんだと実感した思い出があります。
ただ、幸いなことにマレーシアは飲酒に関しては緩めなのでインド料理系のお店やフードコートではビールやワインも普通に飲めましたが、これが厳格な国となると勝手が違ってきます。
高野秀行さんによるイスラム飲酒紀行は、本のタイトルからも そういった国でいかに酒を調達して楽しむか?みたいな内容を想像されるかも知れません。
これは半分合っていますが、この本が伝えたい部分はそこではないと思います。
イスラム飲酒紀行 高野秀行
私が2月に行ったバングラデシュは国民の95%程がムスリム(イスラム教徒)で国教もイスラム教です。拡声器からは大音量でアザーンが流れ、人々は熱心に礼拝を捧げる国であってもビールは飲めますし、何なら国産ビールも造られてもいますが、そういったお店は現地の人々からの距離を感じる…というよりも、隔離されたような感覚があります。
ではムスリムの方々は一滴もお酒を飲まないのか?と言いますと、実は全然そうでもないのだと高野さんは書かれています。ムスリムの人々には日本人以上の本音と建前があり、公の場では飲酒の「い」の字も出さないが、それが個別会話になると違うのだと。
なるほどこれを読んで感じたのが、バングラデシュでお世話になった方にご家族の前で酒は飲まないの?と聞いたときの反応です。「飲ミマセン。」と語ったときの彼の表情は、50ルピーでと合意の上で乗車したリキシャを降りたときに「2人だから100ルピーね。」と、明後日の方向に視線を向けながらしれっと言い放ったときのインド人の表情にそっくりでしたし。こりゃ何か隠してるなと直感でわかるレベル…絶対どこかで飲んでそう。
お酒に厳格な国でいかにして現地人と楽しく酒を飲むか?その答えがこの本に書かれています。
お酒には知らない者同士の心を開放させて仲良くさせる力がありますが、国の規律は厳しいので大っぴらには飲めない…でも、こっそり一杯やって仲間とかけがえのない時間を楽しむその様子は、未成年の頃に仲間とこっそりお酒を飲んだときのスリリングさと楽しさが伝わってきます。
私もイスラム圏でこんな飲み方をしてみたい気持ちになりました。
とは言っても、実際は高野さんのように現地の方に「こっちに来なよ」と言われた時に絶対に酒があると感じ取る感性もなければ、知らない土地で知らない方についていく胆力も備わっておらず、ましてや語学力もないのマネは出来ないと思いますが、こんな世界があるんだという気付きがあって、最後まで楽しく読めてしまいました。
お酒を嗜む海外旅行好きさんには是非ともお読みいただきたい一冊でした。